盲人コーナーからセンサリーガーデンへ
ふれあいの庭は大阪府営公園大泉緑地内にある。知らなければ見過ごしてしまうような小さな空間(約2000平方メートル)である。にもかかわらず、多くの新聞やTVに取り上げられた。その理由はただ一つ「あらゆる人のニーズに答えようとデザイン努力を行った(ユニバーサルデザイン)」からである。昭和49年、当時としては画期的なコンセプトで「盲人コーナー」という視覚障害者の特別 なニーズに対応するための空間が大泉緑地内にオープンした。オープンより四半世紀が経過し、施設自体の老朽化が進むと共に「特別 な人の為の空間」というコンセプトは世の中に受け入れられにくい時代となった。 そこで、新しいガーデンを別の場所に設けることになり、この設計を私達が担当することとなった。 ● 特定の人のためだけではなく、あらゆる人にとって使いやすい空間をつくる ● 設計配慮は、それを必要とする人のみが気付く「さりげないもの」にする ● 美しいデザインを作る この三条件を満たす空間を作るために、あらゆる年代層、様々な障害の人々を公園に招き「心安まる空間とはどのようなものか」についてデザインワークショップを行った。 同時に、20世紀初頭よりアメリカ全土に作られた盲人コーナーやフレグランスガーデンを十数ヶ所見学し、図面 や植裁図を基に、現在の利用状況を研究した。その結果、センサリーガーデン(感覚の庭)を作るべきであるという結論に達した。センサリーガーデンとは五感を使って楽しむ庭のことである。「何らかの障害を持ったとしても残存機能をフルに使って自然は楽しめるはずである」このコンセプトに基づいて設計が進められることになった。
庭にストーリーを持たせる
「秘密の花園」(フランシス・バーネット作)という物語をご存じであろうか。「庭は万人の心を癒す」という内容である。この物語を主要コンセプトに庭のデザインは進んだ。シーンとそのシークエンスがランドスケープを構成する上で最も大切なものであり、ストーリー性をも持たせながらシークエンスを作っていった。 エスキスを繰り返し、模型を作成し、判らない部分や疑問に思う部分は視覚障害者や車椅子使用者に相談した。ディテールデザインは、建築内部のデザインと同等の神経が必要とされた。
五感で感じる植栽
庭の持つ意味を最後に仕上げるのが植栽である。設計当時は今ほどイングリッシュガーデンブームではなかったが、植栽計画の母と位 置づけられている故ジーキル夫人の研究を専門とするイギリス・レディング大学教授に植栽カラースキームを依頼し、それに基づき日本で生育可能な植栽にオリジナルイメージを変更させることなく作成した。 工事監理を行わない土木公共工事では、ディテールデザインや植栽種が私達の意図した通 りに行かない部分もあった。しかしオープン後、多くの人がこの空間を訪れ、語らい、集い、何よりも様々な配慮がそれを必要とする人にしか気付かれず、あたかも「普通 の空間」のように扱われているのを見ると、設計意図は成功したように見える。 今後高齢社会となる日本で、過度の装備や配慮を施さなければ「高齢者対応」といえないと考えられる屋外空間整備に、わずか2000平方メートルの空間が一石を投じてくれたように思う。